前々の漢字講座は本年の干支の「とり年」に因み「鶏・酉」の漢字を取り上げましたが、本来のトリである鳥という漢字を説明します。
鳥という漢字は字形がいかにも鳥の象形です。ただ、中国では鳥は長尾禽の総名とされます。両翼二足を持つ動物、禽獣の総称です。委しく象形を見ると、鳥の足を匕とし、その上に胴体が両翼を持ち、上に頭が乗っていますが、左方に嘴が出ています。右方の胴体の尾部は長くなっているので長尾禽とされます。鳥という漢字は左向きの鳥が両足を抱いて飛び立つさまをよく表していますが、同じような感じの漢字に魚や馬があります。馬も左へ向かって疾走している馬の象形です。その足は灬の四足となっています。鳥の灬と同じに見えますが、鳥は二足、馬は四足です。鳥の前足二本、つまり腕・手の部分は両翼に変わってしまいました。翼により鳥は空を飛ぶことができるのです。漢字の鳥の足部分の灬は先に見たように二本の匕を表し、それで鳥は二本足になるのです。
ところが鳥によく似た漢字に鳥の一種の烏の漢字がありますが、この漢字は鳥の顔の部分の一が欠けています。顔がよく分からない。真っ黒なカラスは頭と顔の区別もつかないといったらカラスは怒るでしょうが、中国の古い漢字の字書でも烏は遠くから見るとその眼が区別できないから鳥の一画を除いて烏という漢字になったといいます。実はカラスの烏という漢字は鳥の漢字の仲間ではありません。烏の足にあたる灬は火であり、烏という漢字の部首は火偏となります。火に焼けて烏は真っ黒になったといえばカラスはまた大怒りです。
さらに鳥によく似た漢字に島があります。この漢字は嶋とも書きますので、山偏に鳥という漢字になりますが、実は鳥という漢字でも島・嶋、海のくまを意味しました。島々、すなわちはるか海上の島の人を鳥夷という漢字が中国の古書にあり、司馬遷『史記』五帝紀には「能く鳥を捕らえる夷人」の意味とされます。中国東北の人びとのようですが、漢代では西南夷のことを指しているように、鳥夷についての中国の四辺の方角が変化したようです。中国西南から東南アジアの少数民族には吹き矢などで鳥を捕らえる人びとが現在まで続いています。
ここで鳥の熟語を挙げましょう。鳥瞰は鳥が上空から下界を見ること、その図面を鳥瞰図といいます。鳥居は鳥の住処の意味ですが、これを鳥井とも書いて神社の前にもある門ですが、これは仏教の釈迦伝説の四門の教えで、インドの仏塔デアルスト-パの入り口が中国経由で日本に伝えられたものがはじまりです。聖徳太子さま縁の大阪四天王寺の西門が銅鳥居であることは有名ですが、他に奈良奥地の吉野蔵王堂にも大鳥居があります。鳥居は古来結界、心すべき聖地を意味するもので、なにも神社の独占物ではありません。比叡山横川の元三大師墓所の御廟にも石の鳥居があり、拝島大師西築山にも赤い鳥居が立っています。
鳥語は鳥の鳴き声ですが、八〇〇年前の京都北郊外の栂尾高山寺明恵上人は鳥の語、話し声を聞き分けたといいます。日本に始めて渡来した種子島銃、つまり火縄銃のことを中国では鳥銃といいます。鳥散は鳥の飛ぶようにちりぢりに散ること。鳥子は鳥の卵ですが、これに似た形の餅を鳥子餅といいます。なお、鳥子紙は雁皮と楮を混ぜて作った紙。福井県産が上質。鳥獣は熟語というより自然の野生動物の総称です。
鳥が付いた漢字を挙げますと、鵜・鶖・鶿・鷧(う)鴛・鴦(おしどり)鴬・鶯(うぐいす)鴎(かもめ)鴨・鳧・鳬(かも)鶏・鷄(にわとり)鴻・鳳・鵬(おおとり)鷺(さぎ)鴫・鷸(しぎ)鷹(たか)蔦・鳶(とんび)鶴・靍・靏・靎・鶮(つる)鴇・鴾(とき)鳩・鴿(はと)鷲・鵰(わし)鳰(にお)鴉・鵶(からす)鴈鴃(がん)鴂・鴃・鵙・鶪(もず)鴟・鵄(とび→とんび)鵝・鵞(がちょう)鵆(ちどり)鵤(いかる)鵐(しとど)鵲(かささぎ)鶉(うずら)鶫・鶫(つぐみ)鵯(ひよどり)鵺・鵼(ぬえ)鶚(みさご)鶩(あひる)鶲(ひたき)鶻(はやぶさ)鶸(ひわ)鶺鴒(せきれい)鷂(はしたか)鷽(うそ)鸛(こうのとり)鸞(らん)鸙(ひばり)鳦(つばめ)鴗(かわせみ)鳹・鴲(しめ)鴘(わかたか)鴜(ははどり)鴞(ふくろう)鴰(まなづる)鴳・鴽・鵪・鶕(ふなしうずら)鴴(ちどり、すずめ)鴼(さぎ)鵂・鵩・鶹(みみずく)鵇(とき)鵊(ほととぎす)鵟(よたか)鵥(かけす)鵻(こばと)鵾(とうまる)鶃(おおさぎ)鶄(ごいさぎ)鶍(いすか)鶎(きくいただき)鶬(まなづる)鷗・鴎・鷖(かもめ)鷚(ひばり)鷥(しらさぎ)、同じ鳥名が別の漢字にもなります。鳥が鳴く、鳥が鶱ぶ。鳥が飛んで国境の塞を越えますが、鳥はいいなあという人々の気持ちを示します。面白いでしょう。