「君がため春の野にいでて若菜つむ、我衣手に雪はふりつつ」『古今集』にもある若菜摘みは、野遊びと食べる楽しみを兼ねたもので、江戸時代には正月七日が五節供の一つと定められ、若菜節、七種の節供など言い、七種の菜を入れた七草粥を食べ、春の祝い、万病除けの願いとした。
☆芹セリ セリ科。
田の畔でつんだ若葉を田芹、白いひげ根を根芹、水辺に群生するを水芹と言い、香りがよく、ひたしもの、あえもの、汁の実に使う。『万葉集』「ますらおと思へるものを大刀佩きてかにはの田居にせりぞ摘みける」、『源氏物語』「沢のせり、峯の蕨など、たてまつり」など、古くから香りの良さと食感の良さを愛され、民間療法では大腸・小腸を利し、黄疸を除き酒後の熱を去るなど薬用にもなる。
☆薺ナズナ アブラナ科。
世界各地に分布。果実は三味線のバチに見立てぺんぺん草、或いはぢぢ(ばば)の巾着とも言い、英語・独語・仏語で羊飼いの財布と言うが、洋の東西を問わず、見立てが同じである。若葉はゆでてあえもの、炊きこみにして美味。果実は『神農本草経』には肝、心、脾、肺、腎の五臓の気を補い、瞳の光を益す作用ありとか。
☆御行オギョウ キク科。
鼠麹草、母子草。若葉・茎は食用になり、その名のゆえか、『文徳実録』「田野有草、俗名母子草。二月始生。茎葉白脆。三月三日に属すごとに、婦女はこれを採る」とあり、雛の節句の草餅に入れた。『本草書』では、去痰薬、止咳薬としても用いられる。
☆繁縷ハコベ ナデシコ科。
古名はハコベラ。鶏のヒナが好んでついばむのでヒヨコグサ(英語でも同じ)とも。春、五弁の可憐な白い小花をつける。茎葉をゆでてひたしものやあえもの、みそ汁の実になる。民間療法では生薬をつき砕いての汁が悪瘡に神効ありとか。産婦は食して催乳作用によろしく、江戸時代には干して炒り、塩を加えて粉末にし(「はこべ塩」)はみがきに用いたという。
☆仏の座ホトケノザ キク科。
コオニタビラコ。陽春、黄色の愛らしい花を開く。田の面に土器を置いたように生えるので土器菜とも言い、若葉が蓮華状の円座を作り仏の座、地面に平らにロゼット状になるので田平子と言う。葉は蒲公英に似て、いかにも柔らかそうで、おひたし、あえものなど食用。同名でシソ科のホトケノザは春の七草とは別で、茎が高く立ち上がり、四稜で下部は地をはう。葉は対生し円形で、紫紅色の筒状唇形花が輪生する。宝蓋草、ほとけのつづれ、さんがい草とも。コオニタビラコにくらべると著しく不味という。
☆菘スズナ アブラナ科。
蕪カブの別名。カブラとも。カブとは頭のことで根の形が似ているのでついた名という。大かぶ、小カブの二種がある。『日本書紀』持統天皇七年(六九三)に天下に詔して、「桑・紵・梨・栗・蕪青等の草木を勧め殖えしむ。五穀を助くとなり」とあり、古くから栽培された。葉は緑濃く大で、根は円く扁く、多肉、多汁。紅白二種あり。ビタミン、カルシュウム、鉄分など栄養豊富。適度の甘味と食感が、生で、塩漬け、かす漬け、ぬかみそ漬け、三杯酢のあえもの、ゆでておひたし、ゴマミソあえ、煮込んでふろふき、濃厚ス-プに、実に多用、美味、重要野菜。破魔矢は穴あき蕪形を底に付けた鏑矢が正式。
☆清白スズシロ アブラナ科。
ダイコン(大根)の別名。オオネとも。縄文時代から栽培され、正倉院文書(七六二)「卅二文大根六把直」にも記載。元来冷涼を好む作物で、日本では先人の努力で多様な品種と周年供給が成り立つ。緑濃い葉はビタミンA、カルシュウム・鉄分多く、ゆでたり、油炒め、塩もみして浅漬に、根は多量のビタミンC、ジアスタ-ゼを含み、生で大根下ろし、なます、切干し、はりはり漬、塩漬、みそ漬、たくあん漬、煮てふろふき大根、おでん、ダイコン飯にと実に多用、美味、栄養豊富、大切な食材。
秋の七草は見立て良く、薬効あり(葛は特別特効有)で揃い、春の七草は食べて良し、味良し、香り良し、栄養薬効も豊富でお徳。食は気候風土と相俟っての文化、命の基盤、薬事の根源。四季の恵みに感謝感謝。