虚空蔵さんは江戸時代の旧本堂時代より本尊大師さまの宮殿右側、向かって左側の不動明王の脇に祀られていました。お不動さんは火の中に飛び込み人びとの苦難を救う明王で火焔を背負い元気と勇気を与えてくれます。大師さまの左、向かって右側には身体から火を出す愛染明王、人とトラブルを防止し、ケンカせず、仲良くするようにしてくれます。さて、この度虚空蔵さんを樟の一本彫りで制作し、愛染さんと並べました。赤い愛染さんと白い虚空蔵さんは絶妙なコンビです。
さて虚空蔵とは、インドの言語サンスクリット語のアカサ-ガルバハまたはガガナガンジャの漢訳で、虚空がすべてのものを含蔵するように、無量の福徳智慧をそなえ、つねに人びとにこれを与え、諸願を満足せしめるという菩薩です。虚空蔵菩薩を本尊として修する虚空蔵求聞持法は求聞持すなわち暗記力を向上させることに霊験ありとしました。若き二〇代の弘法大師空海もこれを室戸の岬の洞窟中で修したところ、満行の日に口中に明星が飛び込みました。それから数年後唐に行く留学生試験の難関を突破してから求聞持法の霊験力が存分に発揮されます。すなわち延暦二三年(八〇四)遣唐使藤原葛野麻呂の第一船に同乗した空海一行は悪天候に長期の漂流となり、南方遠く福建省福州に数十キロメ-トル離れた赤岸鎮に漂着しましたが、それから空海の中国語の暗記力の超能力が存分に示され、かずかずの困難を乗り越えて唐国都長安まで到着し、青龍寺恵果阿闍梨を先生として、不空三蔵がインドより直接将来した真言密教の奥義を勉強習得します。もはや教えるものは無いとまで言われ、中国ではやがて密教は滅ぶ、これを密教相応の地である日本へ持ち帰るようにとまで言われました。
そのために平安時代以来、数え十三才になった男女が正装して虚空蔵菩薩に参詣し、これを十三参りと呼びます。数え十三才は自分の生年の干支が一巡して、同じ干支になる年です。巳(み、へび)年生まれの人は今年の巳年で十三才、中学に上がる年齢です。英語などの外国語の単語や言い回し、数学・理科の公式や歴史の年代など、暗記力が必要です。他方六十才の還暦も生年の暦に還りました。記憶力が落ち、物忘れがはじまる年です。虚空蔵さんにその防止を祈願し、楽しく暮らしましょう。