【漢字講座】葉(は)

前回は春、百花満開の頃でしたので、漢字の花を取り上げました。その後花が散り、花の季節が終わり、葉桜から新緑、さらに深緑と、緑がますます濃くなりました。樹木の緑、葉の季節です。そこで漢字の葉を取り上げましょう。

葉の本字は上から艸、中に世、下に木と書きます。二千年前の後漢時代の漢字の解説書である『説文』には、「葉、艸木の葉なり。艸に従い、枼は声」とあります。葉っぱの葉は草の葉も、樹木の葉も同じく草葉の意味だというのです。葉の漢字の声は枼、すなわち音は枼の中にある世の音で、「よう」です。ただ、古く漢唐の時代には葉は桑をいうとされましたが、それは「呉人直に桑を謂うに葉という」と言いますから、特に江南地方から始まった葉の使い方でしょう。後世の中国では葉価と言えば桑の葉の値段を意味し、これは江戸時代の日本でも同じです。

物事の根本を根幹というのに対して、枝葉末節という言葉があります。この場合の葉とは末、わかれ、という意味です。幹から遠い小枝に生えているのが葉です。樹木の葉が木にどういうふうについているかよく観察して下さい。
葉の中に世という字があると述べましたが、葉は世、時代という意味があります。平成28年の1月(正月)から6月までを平成28年前葉という使い方で前半の意味ですが、もう少し正確な使い方では二十世紀中葉という使い方です。
葉は薄いもの、軽薄なものを指すことがあり、紙は一葉、二葉と数えます。和綴じ本、書物の頁でも第何葉の表裏の使い方があります。

ここで葉の付いた熟語を挙げましょう。葉桜、葉腋、葉芽、葉脚、葉菜、葉子、葉上、葉状、葉手、葉珠、葉身、葉風、葉肉、葉柄、葉片、葉末、葉脈、葉落、葉緑素などがあります。さらに葉月は陰暦八月の異称。葉語は世に相伝する言葉。葉格はカルタの類、葉信は書簡手紙のこと、葉猴は木鼠、さらに難しい使い方では、葉貫は万物中に存在する共通な根本真理を貫くことというすごい意味です。四字の熟語に葉落花開というのがあり、未だ軽々しく離れてはいけないことです。葉落知秋はわびしい季節感ただよう、人生の晩年ですが、そうならないように頑張りましょう。観音菩薩の一に葉衣観音があり、被葉衣は喩えで、八万四千の功徳の衣服を着た観世音菩薩です。密号は異行金剛、三昧耶形は未敷蓮華です。たかが葉っぱと言ってはいけません。中々面白いでしょう。