妙法蓮華経・提婆達多品第十二(一) ~山主の仏典講座78~

法華経の説法は虚空会となり、釈迦如来はいよいよ法華経の神髄、核心に迫る説法を展開します。本号から提婆達多品第十二に入ります。
その時、仏は諸の菩薩と及び天・人と四衆とに告げられた。

「吾れ、無量劫の過去において、法華経を求めて倦怠したことは無かった。多劫の大昔に常に国王となり、願を発して、無常菩提を求めたのであるが、心は退転せず、菩薩行の六波羅蜜を満足しようと欲し、布施行を勤行して、心に象馬・七珍・国城・妻子・奴婢・僕従・頭目・髄脳・身肉・手足を惜しむことなく、自分の身体や生命を惜しまない。時に世の人民の寿命は無量であり、法のための故に、国位を捨てて、政治を太子に委せ、太鼓を撃って四方に宣言命令して法を求めた。『誰か能く、我に大乗の教えを説くものが居ないか。吾は当に身を終わるべきまで、供給し走り使いをするであろう』と。

時に仙人が来りて王に申し上げた。『我は大乗の教えを有つ。名は妙法蓮華経、もし我に違う無ければ、当に為に宜しく説くべし』と。国王は仙人の言葉を聞いて、歓喜し、躍り上がり、すなわち仙人に随って、求むるところを供給して、果物を採り、水を汲み、薪を拾い、食事を設け、それから国王自ら仙人のためにベッドや座るところを用意して、億劫になることが有りませんでした。時に仙人に仕えること千年も経過して、法の為の故に、精進勤務し、給仕して、仙人に乏しい所無からしめたといいいます」と。その時、お釈迦様は重ねてこの義をのべるとして偈を説いて言われた。「我は過去の劫を念うに、大法を求めるための故に、世の国王と作ったと雖も、五欲の楽を貪らず。鐘を撞いて四方に告げた。『誰か大法を有つ者は居ないか。我に解説するならば、自分は当にその者の奴僕となるであろう』と。時に阿史仙人が居た。大王の所へ来て申し上げた。

『我は微妙の法を有している。世間に希有な法である。もし能く修業すれば、吾は当に汝のために説くであろう』と。
時に国王は仙人の言葉を聞いて、心に大喜悦を生じ、ただちに仙人に随って仙人が必要とする品々を供給した。薪や果物、草の実を採って、時に随って恭敬して与えた。妙法を有す人としてよく心から奉仕した。国王は普く諸の衆生のために大法を欣求し、また己が身、および五欲の楽のためにそれを行ったのではない。その故に大国の王と成っても欣求してこの法華経を獲得し、遂に仏と成ることを得るこを致したのである。今、その理由により汝のために説くという」と。

仏は、諸の比丘に告げた。「その時の王とは、則ち我が身是成り。時に仙人なる者は、今の提婆達多である。提婆達多という善知識に由る故に、我は六波羅蜜と慈・悲、喜・捨と三十二相と八十種好と金色身体と十力・四無畏と四摂法と十八不共と神通と道力とを具足せしめた。等正覚を成じて、広く衆生を度うことも、皆、提婆達多という善知識に因るが故なり」と話されたのであります。お釈迦様は意外なことを説かれた。提婆達多は父親を殺し、戦争が好きな極悪人と言われる。それが前世にお釈迦さまがある大国の王であった時に法華経を教えてくれた仙人であって、善知識だという。そして前世の釈尊である国王は提婆達多の仙人から法華経を教えてもらうために薪や果物、ありとあらゆる必要とする品々を供給する。その善功徳によって国王は次の世に六波羅蜜と慈・悲、喜・捨と三十二相と八十種好と金色身体と十力・四無畏と四摂法と十八不共と神通と道力とを具足せしめ、等正覚を成じて、広く衆生を度う仏陀に成じたというのであり、それが皆、提婆達多という善知識に因るというのである。それでは提婆はなぜ悪人になったか。次号に続きます。