本年の干支は丁酉、酉年ですので動物の鶏の漢字を説明します。鶏という漢字は本来の漢字は雞と書きましたが、古くから鶏の字も用いて来ました。
実は雞も鶏も古い殷時代の甲骨文字は同じ形でした。それが雞の字を本字にした理由はよくわかりません。多分雞の字が古代中国人に好まれたのでしょう。雞の字は二千年前の後漢の漢字の字書『説文』に「雞、時を知る畜なり。隹に従い、奚は声とあります。隹はとり、ふるとりの意で尾の短いとりの総称といいます。隹の漢字の仲間には隼(はやぶさ)・雀(すずめ)・雁(がん)・雉(きじ)などよく知られた字があります。ただ、雉や雞の雄は尾が長いので変です。
雞の意味を考えると、「時を知る畜なり」とあります。『玉篇』という字書には「雞、晨を司る鳥」とあります。雞鳴といえば、にわとりの鳴き声ですが、『漢書』列女伝に、「雞鳴楽師は鼓を撃ちもって旦を告ぐ」、にわとりの鳴き声で「朝だ」というのですが、夜と朝=昼とはにわとりの鳴き声で区別するのだというのです。司馬遷『史記』孟嘗君伝に、秦国から逃げ帰る途中で函谷関にさしかかりました。まだ夜でしたので関の扉は開いていません。関法では「雞鳴而して客を出す」とあります。孟嘗君の家来に鶏のコケコッコウ-という声のまねの上手い男が雞鳴をしたら関の扉が開き、逃げることに成功しました。
日本では『古事記』上巻の天の岩屋戸の条に天の岩戸に籠もり、天地が常闇になった時、隠れた天照大神を世に出す工夫として、「高御産巣日神の子、思金神に思はしめて、常世の長鳴鳥を集めて鳴かしめて」とあり、この常世の長鳴鳥は鶏の古語だとされます。ここも鶏が鳴くと夜の闇が明けて昼の朝になるのです。
また雞・鶏の漢字の形に戻ります。雞・鶏の漢字の奚の頭はにわとりの鶏冠を意味します。『尚書大伝、洪範五行伝』「時に則ち雞禍有り」の注に「雞、畜の冠翼有るものなり」とあります。
先に古代中国では雞は尾の短いとりの総称といいましたが、長尾鶏という四国高知県特産の鶏は日本固有のニワトリの珍種で、尾の長さ八メ-トルにもなり、特別天然記念物になっています。鶏ニワトリを指す漢字には、朱公・金禽・家禽・兌禽・徳禽・巽羽・雪羽・丹頸・勇頸・緑頸・翰音・花冠・蜀雉・司農・知時畜・戴冠郞・木綿着鳥などが有ります。面白いでしょう。いずれにしても鶏ニワトリは雄が立派な鶏冠や尾を持ち、朝一番に鳴く鳥です。今年の干支はトリ年、闇夜を破って人より早く明るさを手にトリ入れましょう。