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慈覚大師円仁讃仰「入唐求法巡礼行記」研究-その2-

承和五年(八三八)七月三日、丑の時(午前二時ころ)、潮が生じた。路を知る船が、前を先導して掘港庭(大運河の町)に赴いた。巳の時(午前一〇時ころ)、白潮口に到った。逆流がはげしくほとばしる。大唐の人が三人と日本から来た水手船頭たちが、船を曳き流れを横切り、岸に到って纜(ともづな)を結び、しばらく潮の生じるのを待つ。
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慈覚大師円仁讃仰「入唐求法巡礼行記」研究-その1-

はじめに
慈覚大師円仁「入唐求法巡礼行記」は、その概略を本誌『如意輪』の「元三大師のお話し」で紹介したことがある。しかし、最近各方面から「入唐求法巡礼行記」が取り上げられ、その中には著しく事実を誤り、それが慈覚大師御自身のお気持ちを全く理解していない説明が行われていることを眼にするにつけ、それは大師讃仰とは全く逆、大師の壮挙の価値を無にする由々しき事態であると思い、慈覚大師円仁讃仰の気持ちから「入唐求法巡礼行記」研究というべきその詳細な紹介を企図した次第である。研究は二部構成でまず、第一部では「入唐求法巡礼行記」の忠実な現代語翻訳・訳註、第二部で慈覚大師円仁の仏教とその時代ということにしたい。大方の御批判を願うところである。
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