【漢字講座】第33 子(ね、ねずみ)

本年の干支は子(ね、ねずみ)、子の音はシです。象形文字で人の頭と手足の形とに象ります。また赤ちゃんが揺り籠の中に足を合わせた格好で丸くなっている形とも言います。宮詣での赤ちゃんを想像してください。本義は父母の間に生まれた子供さんを意味します。本来、男女を問わずすべて子ですが、儒教倫理と男系優先の家族制度が確立した二二〇〇前の秦漢時代より、中国では子は男子に限るという風潮になって今日に及び、2千年以上わたる中華帝国の歴史で皇帝、王になったのは唐(周)武則天ただひとり、彼女も中国史では則天武后とあくまで皇后扱いです。
子という漢字の意味をもうすこし詳しく見ると、ア、父母の間の子供、イ、跡とり、家を嗣ぐもの、皇太子のごとき、ウ,むこ、エ、庶子、これはイとは逆の存在です。オ、子孫などがあります。さらに子という漢字は男子の通称、男子の美称となり、ついには孔子、孟子、荀子、老子、荘子の子のように師、先生の意味になりましたが、さらに徳の高い人、身分の高い士大夫の称ともなりました。以上は子は男子という通念によっています。逆に子が女子だとする中国古典の『詩経』大雅や『春秋左氏伝』の記事もありますが、あまり目立ちません。日本では奈良・平安時代以降、女子の名前について光明子、定子、彰子となりました。ただ、これらは今日のように「~こ」ではなく、「こうみょうし」、「ていし」「しょうし」と中国的に「~し」と訓じたようです。面白いでしょう。
さらに中国では漢字の子は、「あなた」「きみ」という相手に対する呼びかけの言葉でありますが、これが相手を尊んで呼ぶ場合と、目下の身分の低い相手に使うという場合と、全く反対の用法があって難しいのです。若者(わかもの)、人びと、民、百姓という用法から、万物、天地間の生物すべてを指す言葉が「子」であるともいうのですから、子の漢字は奥が深いのです。また果実、実も子、たまご卵も子です。お金が利息を生んだものも子といいますが、小さい、微少なもの、どこでもある石みたいなものも子と言います。
ところで、子は干支の漢字でなぜ「ねずみ」なのでしょう。中国文献にそのことを明確に説明したものは見つかりませんが、近世清代の『説文通訓定声』という書物には子の漢字を「ふえる」「しげる」という意味があるとしています。ネズミは子供をたくさん生むからという説はあまり古いものではなさそうです。ただ、漢字の起源を説明した書物にも「万物の茂ること」という説明があります。人の子を子というのは仮借であるとも言います。仮借して慈の自、茲、祭祀の祀にします。でも子がねずみとは絶対に出てきません。干支の子がネズミとは、奈良県明日香村の七世紀末~八世紀初制作と推定されるキトラ古墳に獣頭人体像の子像の事例があり、朝鮮・中国からの影響があります。薬師如来の十二神将が干支の動物になりますが、日本の最古最大の奈良新薬師寺の十二神将には獣頭は確認できませんが、干支の最初はネズミからはじまるという考えは分かります。

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