漢字講座・第36 東(とう・ひがし・あずま)

現在、コロナウィルスによる新型肺炎大流行の拡大を抑えるために世界中で東西南北の人の移動が制限されています。逆に流行伝播は方角があるので自分の位置から方角を正しく考えることが大事になります。そこで方位を意味する東西南北の漢字を考えることにします。まず、今回は東から始めましょう。東という漢字は木の真ん中に日が入った漢字で、会意という種類の漢字です。正確に言えば、日すなわち太陽が水平線から少し上って木の中ほどに来たことを示し、その方角を東というのです。古代中国人の考えでは、東方は万物が始めて動き生ずる方位としました。中国人以上に日本人は方角に気を付けました。東をひがしと訓じたのは日向風ヒムカシが転じてヒンカシ、これが略されてヒガシになったのです。なお、日本では東をあずま(元はあづまと書く)という呼び方が各地に地名での残ります。東町とかいて「あずまちょう」と呼ぶのです。『日本書紀』景行天皇紀に日本武尊が東征の帰路、碓日嶺から東国を眺めて、妃弟橘媛の投身を悲しみ「あづまはや」と嘆いた地名起源説話があります。奈良時代に成立した日本最古、最大の歌集『万葉集』には巻十四に東歌が載り、その地域は東海道の遠江国・駿河国の静岡県、相模国の神奈川県、上総国・下総国の千葉県、武蔵国の東京都・埼玉県、常陸国の茨城県、それに東山道の信濃国の長野県、上野国の群馬県、下野国の栃木県、それに陸奥国の福島県・宮城県となっています。また『万葉集』巻二十に東の国から九州筑紫国の防衛に向かう防人たちの歌も各国ごとに提出させ掲載した記事が載ります。東は万葉集ではその枕詞が「とりが鳴く」という語ですが、その鳥は鶏で、鶏が朝暗いうちに「コケコッコウ」と鳴くと夜が明けます。天照大神が弟素戔鳴尊があまりに凶暴で他の神々を困らせたので、天の岩戸に隠れたところ、世の中が真っ暗闇となりました。それを開けるためにいろいろ工夫をしましたが、その中に鶏を鳴かせるというのがあります。一体、日本は何で日本かというと日が出る国、西の中国は日が沈む国とは一千四百年前の聖徳太子が隋に送った手紙に書いています。その日本でも最も東の地方は東の国というのです。東の付いた用語は数多いのですが、東風を「こち」というのは有名です。平安時代に九州大宰府に左遷された菅原道真に「東風こち吹かば匂いおこせよ梅の花、主なしとて春な忘れそ」があります。ただ、北陸の越中国富山県では大伴家持によれば東風を「あゆのかぜ」と読んでいます。現在、東風は中国のことを指しますが、そのコロナウィルスは困ります。何とか皆でコロナを撲滅しましょう。