【漢字講座】第27 亥・猪(い)

本年の干支は亥(ゐ=い・いのこ)、亥の音はガイが慣用です。普通は亥と書き、部首も亠(なべぶた)ですが、正しくは亥の上は亠ではなく、二なのです。象形文字で豕と同字。二は互の省体で、豕の頭部の形を表わし、亥の亠の下部はその胴体・四足とを象ります。仮借して十二支の第十二位。「説文」では、二と二人と⊂とを合わせた会意字とします。二は古文で上、陰気が上に在る意味で、二人は男女の二人、⊂は子を懐く形、男女が子を生むことを意味し、陽気が下に起きる象です。陰気が極まって陽気のきざすこと、年の運勢も今年を境に好転させたいものです。亥が十月に当たるのは、北斗七星の斗柄が亥に向くからです。

なお、亥が付く漢字を挙げると、孩・該・劾・咳・骸・欬・垓・駭・峐・痎・硋・絯・胲・荄・郂・閡・陔・頦・餩・などがありますが、すべて亥(ゐ=い・いのこ)とは関係ありません。音がガイの漢字です。音の違う字には核・輆のカク、刻のコクがあります。これらが亥(ゐ=い・いのこ)とは関係ないのはもとの漢字が亠の亥だからでしょう。

亥(いのこ)は動物の漢字では猪(いのしし)です。もっとも先に示した豕のほかに彘・豨・豭などもあります。ただ猪の本字は豬で、猪は俗字とされますが、その用例を発見するのは困難です。豬はいのこ、豕・豚のことです。豕に宀う冠を付けると家になります。豕・亥は家畜の豚です。中国ではいのししを野豬と言います。もしかしたら野生の猪はごく珍しいのかも知れません。日本では縄文時代に猪を家畜にして豚にしたという考古学上の発掘事例が九州鹿児島の遺跡で発見されました。五六千年以上も昔です。

さて、猪の本字である豬の漢字の意味を字書で見ますと、①一つの毛穴から三本の毛が生えている豕、②ゐのこ、ぶた、③ゐのこの子、豚の子、④水たまりなどがありますが、説明が必要なのはゐのこの子、豚の子は産む子供の数が豚は多い、それが亥のはじめに説明した漢字の意味
に関係するからでしょう。④水たまりは中国では川や池沼など水たまりに豚を飼っているからだと思います。やはり中国では豬・亥(いのこ)は初めから豚なのでしょう。豬の熟語を挙げると、豬頸は猪首、短い首です。豬口は尖った小さい口、豬口才は小利口、生意気です。豬水はたまり水、豬突は猛進すること、これは猪も豚も同じ。これで終わり。