【漢字講座】第28 令(れい・よい)和(わ・やはらぐ)

五月一日からの新しい年号が決まりました。令和(れいわ)です。『万葉集』巻五、梅の歌三十二首のはじめに次の文章があります。
○天平二年正月十三日に、帥の老の宅にあつまりて、宴会をひらき。時に、初春の月にして、気よく風(やはら)ぎ、梅は鏡前の粉をひらき、蘭は珮後の香を薫ず。
令月の令と風和ぎの和で令和としたというのです。そこで令・和という二字の漢字について考えてみます。
令は上に人が付き下に一が付く字(集合の意味)と、その下にさらに卩という字が付いた合字です。卩は瑞信(しるしの玉)で、瑞信すなわち権能をもって招集して行動せしめることを示します。よって号令を発して人を使うこと、要するに命令の令がもともとの意味でした。しかし、中国の古典には早くから令が命令の令ではない使用例が見られます。『書経』太甲下の「今王嗣に令緒有り」の令の注に「令は善なり」とあり、『詩経』邶風の「我、令人無し」の注にも「令は善なり」とあります。令は善(よい)という説明は多くの漢籍に出てきます。熟語でも令顔、令軌、令準、令淑,令緒、令称,令士、令辰、令人、令政,令声、令典、令図、令徳、令望、令範、令聞,令名、令問、令誉,令王などは、美しい、立派な、正しい、完全な,色々な好い、良い、善い意味なのです。でも令辞は「うまいことば」、令色は「顔色をよくする、こびへつらう顔をする(巧言令色)」で用心しなければなりません。さらに善いの意味から人の敬称に使われる事例はみなさんよく知っているでしょう。令嬢、令息、令友,令兄、令妻、令子、令姉、令嗣,令叔,令尊、令女、令弟、令姪、令妹、令郞があります。ただ令吏は役人の敬称でもなければ、善い役人の意味でもなく、えばってばかりいる小役人のことです。
それより『万葉集』の令月そのものの典拠の漢籍があります。『儀礼』士冠礼に「令月吉日」、張衡帰田賦」に「仲春令月、時和気清」とありますが、これでは令和の出典になってしまいます。さらに『孔子家語』に「頌(ほ)めて曰く、「令月吉日」と、良い月、吉月をいうのです。 和はやはらぐ、おだやかの意味ですが、和は古く倭国と呼んだ日本国のことを言います。でも大和は「やまと」、奈良地方の国名か地域名を言います。和の漢字の説明は次回に詳しく説明します。ここまで。