【漢字講座】花(はな)

△先に「花といえば桜」が日本の常識としましたので、漢字の花の説明をします。ただ漢字の母国である中国では、「花といえば桃」です。

△花の本字は非常に複雑な字で、いかにも花の造化の象徴と言える漢字でした。早くから、代用の花という字が「はな」になりました。花は草木の華なりとされます。花の字は艸・草冠に化と書きます。くさ草から化生したもの、それが花です。

△化とはどういうことでしょう。「化ける」「大化け」という言葉を知っているでしょう。株価が大化けするとは、高騰する意味です。ダメな人が化けると言えば、えらく成績の良い、有能な人物になることです。でも昔話では狐が化ける、狸が化けるがよく出てきます。それに猫が化ける、化け猫の話しは怖い怪談です。逆に化けることの有り難い仏教説話に蓮華化生があります。奈良斑鳩の里法隆寺の隣寺、中宮寺に伝わる国宝天寿国繍帳には聖徳太子が没後天寿国(極楽浄土)の池の蓮の上に蓮華化生したという絵が描かれています。

△ともかく花は美しい。誰の目にも快く見えるものです。また花といえばスポットライトがあたるスタ―のような人物です。舞台の花だけでなく、家族の花、町内の花、学校クラスの花、会社の花、花形です。その人が居るとぱっと花が咲いたように、花やいだ(華やいだ)気分になる。こういう花の使い方もあります。日本語にしかない表現です。大事にして下さい。でも「花より団子」も知っているよ。とまぜ返しをないでください。今は花の話しをしているのですから。漢字の花の話しはこれで花道。お仕舞いとしましょう。
○春眠暁を覚えず、処処に啼鳥を聞く、夜来風雨の声、花落つること知る多少ぞ唐孟浩然「春曉」
○遅日に江山麗ぢく、春風、花草香(かんば)し、泥融けて燕子(つばめ)飛び、沙暖かにして鴛鴦(おしどり)眠る唐杜甫
○春宵一刻直(あたい価)千金、花に清香有り月に陰有り、歌管楼台声細細、鞦韆(ぶらんこ)院落(中庭)夜しんしん宋蘇東坡

△中国の詩人もよく花を詠じています。その極めつきを一首。
○君に勧む金屈巵(金のジョッキ)、満酌辞するを須(もち)いず、花発(ひら)きて風雨多し、人生別離足る唐于武稜
▲この漢詩を井伏鱒二氏が次のような不朽の古典に仕立てました。

○コノサカズキヲ受ケテクレ、ドウゾナミナミツガシテオクレ、ハナニアラシノタトヘモアルゾ、サヨナラダケガ人生ダ