梅に鶯、早春のあまりにも有名な風物詩です。鶯の声を聞くと春が来たなあと実感する人が多いでしょう。そこで今回の漢字講座は鶯という字を取り上げてみました。
うぐいすの漢字の鶯は下に鳥が付きます。鳥は象形文字で左向きの鳥の形を象っています。頭は白で上に羽根か鶏冠が付く雉や鶏のようです。その下に2羽翼があり、胴体、下には曲がった2足が在ります。鳥は本来、長尾禽の総称とされます。先に本漢字講座で見た馬の下に付く灬が四足を表すのに対し、鳥の灬は2足とは変ですが、3本爪つき足をカタカナのヒに見立てた、それが2足で灬としたということです。鳥の頭冠にその鳥の種類が表されます。漢字の六書の象形、指示、会意、形声、転注、仮借の内、会意です。
鶯の頭に似た漢字に勞營塋榮煢犖瑩などがあります。勞は労の本字、營は営、榮は栄のそれぞれ本字で、今では学校で習わない字体です。しかし、漢字の意味を知るには元来の本字を考える必要があります。火が2つ並びます。あかあかと燃えるさま、照り輝くさまから、物事、人事が盛大繁栄のさまを表します。螢(蛍、ホタル)も同様に見えますが、こちらは文字通り火がお尻に付き皎々と火照るさまです。そこで鶯は本来は羽根の色が多彩で美しい鳥を意味しました。中国の古典中の古典である『詩経』小雅、桑扈に「交交たる桑扈、鶯その羽有り」という一句があります。桑扈は小鳥の名で和名「まめまわし」とされます。
中国古代でも鶯はウグイス類の鳥の総称とされたようです。因みに現在の生物学種の分類でも世界には300から400種があり、日本には約15種あるといいます。
どうも中国・朝鮮のウグイスと日本のウグイスは種が異なるようで、中国・朝鮮では「こうらいうぐいす」といい、日本の普通のウグイスより大きく、体は黄色で羽根及び尾は黄色黒色混じり、雌雄並び飛んで織機の出す音のようなシャ-シャ-という声を出し、日本のウグイスの鳴き声とは違うのです。唐杜牧の「江南春」では鶯が冒頭に詠ぜられます。
千里、鶯啼いて、緑、紅に映ず、水村山郭酒旗の風、南朝四百八十寺、多少の楼台烟雨の中
この鶯が日本のウグイスと異なることに注意する必要があります。因みに中国では鶯の別名には黄鸝・黄鳥・黄袍・鵹黄・黄飛・金羽・黄伯鳥・金公子・金衣公子はその羽に色が鮮やかな黄色であることによるものでしょう。そのほか、倉庚・商倉・博黍も穀物の黍の黄色の連想です。ただ、日本同様に報春鳥・春鳥もありますが、早春ではなく春爛漫の盛春のようです。
日本の鶯ウグイスはその背は緑褐色(うぐいす色)、腹は灰色、「ホ-ホキョ」と鳴きます。晩秋から冬には「ホ-ホキョ」と鳴けず、「チャッチャッ」と舌打ちのような地鳴きをし、やがて「ホ-ホケ」までやっとたどりつき、練習訓練を重ねて最後に宿願の「ホ-ホキョ(法、法華経)」ができるようになります。まさに小鳥が法華経の題目を唱える仏道修行のようだと人びとに感動を与えました。
ウグイスの巣にホトトギスが卵を産み、ウグイスはホトトギスの卵を自分の卵と思って育てます。どちらの卵も赤褐色をしていて見分けがつきません。
日本のウグイスは声音のよさで愛されました。選挙カ-に乗る声のよい女性のことをウグイス嬢ともいわれます。
ウグイスは早春を告げる声として、「はるつげどり」報春鳥といわれ、別に「はなみどり」の称もあります。花は日本通例の桜花ではなく、梅の花です。だから「梅に鶯ウグイス」。