古典会だより 梅、春告草、匂草、香散見草

umeバラ科の落葉喬木で、桃、杏、桜、花梨と同じ仲間です。葉より先に花が咲き、しかもいずれも図抜けて美しく、果実は食用、薬用共に有効です。とりわけ梅は、百花にさきがけ、まだら雪の残れる山野に、高い香気を放って馥郁と咲き、気品ある清雅な花として好まれてきました。『万葉集』ではハギ萩(140首)に次いで数多く(100余首)取上られ(桜は40余首)、花と言えばウメの花を言う時代が続き、古くから庭に植え愛好されました。

天平2年(730)大伴旅人の宅で梅花の宴が開かれ、梅花の歌32首を残しています。

○正月立ち春の来らば斯くしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ
○春さらばまづ咲く宿の梅の花独り見つつや春日暮らさむ
○わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも
○梅の花散らまく惜しみわが園の竹の林に鶯鳴くも
○春されば木末隠れて鶯そ鳴きて去ぬる梅が下枝に
○わが宿の梅の下枝に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜しみ

「梅に鶯」は「牡丹に唐獅子」「紅葉に鹿」「竹に雀」と並び、「梅は百花のさきがけ」「まず枝頭に一点の春を現す」「梅は山家の暦(梅暦)」とも言われ、厳しい寒さがふとゆるむ頃、香り高く咲きます。
鶯はこれまた、美声の代表で、春告鳥、歌よみ鳥、花見鳥とも呼ばれ、日本各地に住まいし、夏は山地の低木林、冬は平地に居り、二月から三月、ちょうど梅の花に合わせるように鳴きはじめます。最初の頃は低木の茂みなどでチッチッと地鳴きしていますが、そのうちホ-が始まり、ホ-ケキョとつながり、ホ-ケキョ、ケキョとのばして、チヤッはまだダメ、チエッとも聞こえますが、梅も散りがちの頃、うす曇りの湿っぽい朝など、ホ-ホケキョと満点の声を響かせ、一度出来たら、あとは大丈夫、あんまり乾燥しすぎてない時は、ホ-ホケキョとさえずってくれます。他に高い音の美声はツキ、ヒ、ホシ-(ミノカサホシ-蓑笠欲しい)とも鳴くイカル(三光鳥)が居ますが、鶯、イカル共に湿っぽい時に鳴くので、おばあちゃんは、やっぱりノドに良い時を知っているのかしらねえ、と感心していました。竹藪の中の梅は、庭木と違い、ひっそり咲き始めますが、鶯が教えてくれて初めて気付いたりします。

○鶯の地鳴きで知らる藪の梅

桓武帝が平安遷都の際、紫宸殿に梅を植えましたが、960年に左近の桜に代えられました。因みに右近は橘です。『万葉集』では梅が主だったのに、『古今集』では桜の方が圧倒的に多く、花は桜となります。 平安末から鎌倉の歌人西行は、桜を好んで取上げましたが、実は梅もあります。

○香をとめん人にこそ待て山里の垣根の梅の散らぬかぎりは
○梅が香を谷ふところに吹きためて入りこん人にしめよ春風
○梅が香にたぐへて聞けば鶯の声なつかしき春の山里
○ひとりぬる草の枕の移香は垣根の梅の匂いなりけり

ただ「花の歌あまたよみけるに」での一連の中で

○ねがはくは花の下にて春死なんその如月の望月の頃

釈尊入滅の二月十五日、花の下で死にたいものと詠み、望み通りの二月十六日の死は讃歎されました。この花は大方のところ桜と誤解されていますが、桜の時季には早すぎ、明らかに梅の花です。二月、八月は彼岸吉日、きさらぎ二月は梅の花、弥生三月は桜の花なのです。

suisen梅と桜は良きもの並べですが、松・竹・梅は厳寒三友、梅・竹・水仙は三清、因みに梅は兄、水仙は弟とも。梅・水仙・沈丁花は三君、蘭・菊・梅・竹は四君子、菊・蓮・梅・蘭は四愛、梅・菊・蘭・老梅は四花、梅・桂・水仙・菊は四清と呼ばれ、多くの画題になっています。
梅は花の姿・形・香に優れ、白・紅・淡紅色で八重咲きもあります。
果実は球形か楕円形で中に種子が一つ有り、梅雨の頃に熟し、梅干し・梅酒・梅びしおなどに作り、果肉を煮詰めたり燻製にして薬用とされましたが、果樹としては東アジアに限られます。
室町期頃からは樹皮の煎じ汁を褐色の染料に用い、材は割ると微香があり、寺院では数珠に用いました。好文木、木の花とも。当時流行の小歌集『閑吟集』では、桜と同じく梅も歌われています。

○たが袖れし梅が香ぞ、春にとはばや、物いふ月にあひたやなふ
○只吟ず 梅花の月に臥すべし。成仏生天惣て是れ虚
○梅花は雨に、柳絮は風に 世はただうそにもまる
○老をなへだてそ垣穂の梅、さてこそ花のなさけ知れ、花に三春の約あり、人に一夜をなれそめて、後いかならんうちつけに、心そらにならしばの、なれはまさらで、恋のまさらんくやしさよ

tukusiそして狂言小歌の

○こなたも名残り惜しけれども、明年も通らうやう、再明年も通らふよ、あの日を御覧ふぜ、山の端にかかった めいめいざらり、ざらりやざらり 梅はほろりと落つれ共、鞠は枝にとまった、とまりとまり とまった

これで、さようなら(ばお別れしましょう)の礼となる。下って江戸期、芭蕉の一句、

○かぞえ来ぬ屋敷やしきの梅やなぎ
○春もやや景色ととのふ月と梅
○むめが香にのっと日の出る山路かな

など数多あまた。「梅は咲いたか、桜は未だか」