古典会だより-春の七草ホトケノザ

春夏秋冬、四季の変化に恵まれた日本では、古来、各季節の変わり目、節目フシメを大切にして来ました。ただし、明治までは暦は旧暦で、日を数えるにも、ほぼ一カ月のズレがあります。しかも旧暦では一・二・三月は春、四・五・六月は夏、七・八・九月は秋、十・十一・十二月は冬ですから、一月の年賀は初春、新春となり、七夕は秋の季節を表わす季語です。旧暦での一月は、現行暦のほぼ二月、寒さは厳しいながらも春の気配が生じる頃で、春の七草は『万葉集』巻一冒頭の「籠コもよ み籠もち 掘串フクシもよ み掘串持ち この岳オカに 菜摘ツます児コ」とあるように、野に出て若菜を摘み、あつものや粥にして食べ、春の祝い福寿の願いとしたのが原点で、生命の根源たる食べることにかかわっています。野草、雑草、野菜を含め、七種の名称は鎌倉から室町時代にかけてほぼ定まり、『拾芥抄』(中世公卿の備忘録的著書、歳時、文学、風俗、諸芸、官位、国郡、神祇、仏事等略述)飲食部に「七種菜、薺ナズナ、繁縷ハコベ、芹セリ、菁アオナ、御形オギョウ、須須之呂スズシロ、仏座ホトケノザ」とあります。
①ホトケノザ タビラコ
キク科の越年草。田の畦アゼなどに多い。茎は多く出て枝を分かち、葉は羽状に切れ、無毛。春早く茎の上部に花柄を出し小形で黄色の舌状花をつけ、日を受けて開く。根生葉が冬越しのタンポポと同じく、地面に平らにロゼット状になるので田平子の意ともいう。若葉はやわらかくて食用になる。キク科なのでほのかに香りがあり、しかも丈夫である。
他のキク科の植物は、野草、雑草、栽培種をとわず、花の美しさだけでなく、香りの良さ、薬効成分を持つものが多く有用です。タンポポ、ノゲシ、ノボロギク、ブタクサ、ハルジオン、ヒメジオン、ハハコグサ、チチコグサ、ニガナ、ジシバリ、アザミ、カミツレ、ノコギリソウ、オナモミ、メナモミ、ヨモギ、ヒメムカシヨモギ、キクイモ、センダングサ、アメリカセンダングサ、ヤブレガサ、ウスユキソウ、ミヤマウスユキソウ、ヨメナ、アキノキリンソウ、シオン、オヤマボクチ、オケラ、サワヒヨドリ、コウモリソウ、フジバカマなど。ヒマワリ、ベニバナ、ダリア、コスモス、キク、アカバナムシヨケギク、シロバナムシヨケギク、アズマギク、ヒナギク、マーガレット、ガーベラ、ヒャクニチソウ、ノコンギク、ツワブキ、ヤグルマソウ、ハンゴンソウ、キンセンカなど。フキ、ゴボウ、シュンギク、チサなど、実に多彩です。
②ホトケノザ シソ科の一年または越年草。日当たりの良い道ばたや田畑に自生。茎は高さ一〇~三〇センチメートル。茎は四角で下部は地を這う。葉は対生で円形、下部のものは柄があるが、上部は柄がなく、基部が互いに接して茎を抱いている。上の方の葉は重なって交互に対生し、その中の無柄の葉腋から、紫紅色の筒状唇形花が輪生する。葉はつややかな緑で重なって四方に対生、その上の赤紫色の花は可憐にして一円に開き、実に装飾性豊かで、宝蓋草、ホトケノツヅレ、さんがい草とも。シソ科の植物はほとんどが草本で全体に香りがあり、花は唇形、茎は四角形で、葉は対生である。
オドリコソウ、ヒメオドリコソウ、カキドオシ、タツナミソウ、ジュウニヒトエ、キランソウ、ラショウモンカズラ、メハジキなど。それにシソ、エゴマなど。エゴマは縄文時代から食用となり、油をとって照明用に有用。またシソ科にはハッカ、ナギナタコウジュ、ヒキオコシなどがあり、特にハッカは香りが強く、香料・香味料として食用や薬用ともに有用。